Green Book/グリーンブック

Green Book(2018)

グリーンブック

1962年、アメリカ。ニューヨークの一流ナイトクラブで用心棒を務めていたイタリア系男のトニー・リップは、ひょんなことから天才黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーが南部で行う演奏ツアーに運転手兼ボディガードとして雇われる。

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ルーツの違う2人が仲良く会話している場面を見ると心がほっこりするの、私だけでしょうか?日本に住む人のほとんどは日本人だから文化の違う人と一緒に仕事をする機会はアメリカに比べると少ないはずです。わざわざ「異文化交流」と題して人を集めたイベントが開催されるような国なので、異なる文化を持った人達と一緒に何かをすることって私にとっても非日常的感覚があります。メルティングポットやサラダボウルと言われるように多様な文化が混在するアメリカにおいては日々の生活がまるごと異文化交流ですよね。

かなり前ですが過去に"最強のふたり"というフランス映画を見たときにも、体の不自由な富豪の白人と貧乏な若い黒人という対照的な2人の絆が深まっていくストーリーがどこか新鮮で心地よく観れたという記憶があり、今回紹介する"グリーンブック"も同じような新鮮味を味わえる作品だろうと思い鑑賞することにしました。

1962年のニューヨーク。イタリア系白人のトニーはコパカバーナというクラブで用心棒として働きますが、建物の工事で2か月間職を失います。家族を養わなきゃいけないのでホットドッグの大食い競争に出て勝ったり時計を売ったりしながらお金を稼ぎますが、毎日こんなことやってられないと焦ります。そんな中巡ってきた仕事が、南部へのツアーを試みるドクター・シャーリーという黒人ピアニストの運転手兼世話役として2ヶ月間付き添うことでした。

注意:ここからネタバレを含みます。

ドクター・シャーリーの家が豪邸過ぎていかにも金持ちな雰囲気が分かりやすくていいですね。本作の好きなところの一つですが、黒人であるシャーリーの方が富豪で白人のトニーが雇われる側になっている設定。有色人種への差別が露骨に表現されているシーンも沢山出てきますが、この当時は黒人の富豪ってきっとマイノリティですよね。

南部に向かう車中での2人のちょっとしたやりとりや会話が面白くて微笑ましいです。いろんな場面で2人の中での常識の違いが描かれてますが、そんな中でも一緒に楽しくやり取りする姿が素晴らしいです。特にケンタッキー州ケンタッキーフライドチキンを見つけたトニーが、フライドチキンを食べたことがないシャーリーに無理やり食べさせるシーン。「衛生的に良くない」と言いながらも美味しさに気付きもう一つ食べてるシャーリーがかわいい。でも飲み終わったプラスチックのカップを窓から道路にポイ捨てしたトニーにそれはダメだと拾いに戻らせるあたり、マナーのある裕福な男性の気品が垣間見えてまたそこもいいんですよね。

言葉遣いを注意されても俺はこのままがいいと自分を曲げない性格のトニー。名前も発音しにくいから短く変えようと提案を受けますが拒否。しかしその夜シャーリーの初日の演奏を見てトニーはすごく感心した様子でした。カップを拾い戻ったり煙草をやめてほしいと言われたらやめたり、彼の素直な性格はとても好感を持てるし嫌いになれないですね。

この作品の中で鍵になってくる妻ドロレスへの手紙を手伝うシーンですが、ここでも教養のあるシャーリーが作る文章がトニーの稚拙な文章と対照的で面白いです。"Dear(親愛なる~)"を"Deer(鹿)"と間違えるトニーにはさすがに笑いました。彼女は動物じゃないだろとすかさず突っ込むシャーリーもユーモアがあっていいですね。こんな調子で随所に2人の違いから生まれるユーモアが散りばめられクスっと笑えて平和な気持ちになりますが、人種が違っても友情は成立します~という単純なストーリーではありません。

有色人種に対する差別的な表現が多く出てくるのでそれについても触れたいと思います。印象的だったのは、エンジンが切れ車を止めた場所で農作業をする黒人をシャーリーが見つめるシーン。また彼らもシャーリーを見つめ返すんですが、黒人なのにいい服を着て白人に運転させている、自分たちとは違う人間という目で見つめている感じがします。後にシャーリーが自らを白人にも黒人にも属さない、俺は何なんだと感情的に発言するシーンがありそこにも繋がる印象的な場面でしたね。

スーツ屋に入って試着しようとすると君はダメだと断られたり、黒人専用の汚いトイレを案内されたり、深夜に車に乗っているだけで警察に捕まったり...etc.露骨な差別が非常に多いです。ツアーの最終日にピアニストとして呼ばれた演奏会場で自分だけ食事をさせてもらえないシーンなんかは同じ人間として見ていて辛かったです。だってお客さんは彼の演奏を見たいからそのレストランに来てるのに、店のルールで黒人NGだから食事はさせないっておかしくない?と思いつつ、昔はそれが普通だったんでしょうか...。ここで演奏を辞退した彼の決断は素晴らしかったと思います。その後2人はオレンジバードという黒人が多くいるバーに行くのですが、そこにあった小さなステージでシャーリーは楽しそうにピアノを弾き楽しい夜を過ごしました。

ついにシャーリーの南部ツアーが終わり、トニーは家族のもとへ戻ります。家に着き、"メリークリスマス"と一言残して帰ってしまったシャーリーですが、しばらく経ってからトニーの家を訪れ家族に歓迎されました。ここでドロレスがシャーリーに対し"手紙をありがとう"と伝えるシーンが素晴らしいオチになっていたと思います。手伝っていたことはお見通しよといった感じでなんとも軽やかな締めくくりでした。

トニーも元々は黒人が使ったガラスコップをゴミ箱に捨てるような差別的な白人でしたが、この仕事を通してシャーリーと関わることで問題の深刻さを肌で感じ、随分と成長したように思います。ここでは書き切れないほどに様々なちょっとしたシーンで彼の意識が変わっていくところが描かれているんですよね。

アメリカの社会問題や人種差別問題がテーマですが全く重過ぎて見てられないような作品ではなく、バランスよくユーモアがあったり、作中に登場する南部の白人の中にも差別はよくないと理解のあるいい人が何人か出てくることからも、これからアメリカが変わろうとしている明るい未来が垣間見えたりと、全体を通して見るとハートフルで感慨深い映画でした。