Don't Look Up/ドント・ルック・アップ

Don't Look Up(2021)

ドント・ルック・アップ

2人の天文学者が、地球に向かっている巨大すい星を発見した。彼らは、人類に対して懸命に脅威を訴える。しかし、実績のなさゆえに誰にも真剣に聞いてもらえない。そして必死になればなるほど、能天気な人々との温度差に滑稽さばかりが際立っていくのだった。

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高校時代に父と2人で、沈没から100年ということで当時上映されていた"タイタニック"を観たとき、「なんだこのイケメンは。」と思ったことを今でも思い出します。後に、中学生の頃にこれまた父と2人で観に行った"インセプション"の主人公だったことを知り、この人はアメリカの人気俳優なんだな~と思いながらもその後は特に彼の作品を観ずじまいでした。すっかりおじさんになってしまったディカプリオですが、今でもイケおじ感はあってこれはこれでいい色気のある俳優さんだと思います。(個人的にはお髭があんまり好きじゃないので若かりし頃の方が推せる。)そんな愛着のある彼が主演で、評価が高くコメディ要素のある俗にいう人類滅亡系(?)の映画ということで、単純に私の好きそうな作品だと思い鑑賞しました。

注意:ここからネタバレを含みます。

ある日、ミシガン州立大学の大学院生であるケイト・ディビアスキーが望遠鏡で宇宙を観察していると、一つの彗星が現れます。なんとまだ未発見の彗星ということで彼女や研究グループのみんなは大喜び。ランドール・ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)もはじめは興奮していたのですが、軌道の計算をしているうちにだんだんと表情が青ざめ始めます。直径5~10kmの彗星が、地球に近づいて来ていることがわかり、さらに計算上6ヶ月と14日後には衝突するという事実が発覚。彗星の大きさなどから地球全体が崩壊するレベルの衝突だということも...。

ミンディ博士はケイトを連れてワシントンD.C.へ行き政府にこのことを伝えるんですが、大統領は「ばかげた話」だとしてまともに聞いてくれないんですよね。選挙前の大事な時期にばかげた話に付き合って支持率を落としたくない、といった感じでした。あまりにも現実味のない話を見知らぬ専門家から持ち掛けられて、最初はこういう反応になってしまうのが普通なのでしょうが、このシーンはなんだかもどかしい気持ちになりますね。

政府が聞いてくれないならメディアに出てなんとか世界に知らせようと、今度は有名なニュース番組に出演することを決めます。しかしここでも、ただのエンタメとして扱われるだけで真剣に話を聞いてくれる人はいませんでした。ケイトは耐え切れず生放送中に感情的になってしまい、すぐにSNSで笑い者になってしまいます。真実を伝えたい2人と何も知らない世間との問題に対する意識の差がまるで違いすぎてコメディ要素たっぷりなんですが、実際にこれが実話だったなら地球が滅んでしまうわけですから、人類とは愚かなものだなと思わされます。

そんな中で大統領のスキャンダルが流出します。支持を取り戻すためにここでやっと、核を使用して彗星を爆破し軌道をそらすことを発表しました。動機はともあれ何とか政府が動き出します。

が、爆破計画を実行する当日、ロケットを打ち合げてしばらくすると彗星の軌道を変える前にロケットは地球に戻ってきてしまいます。計画失敗の背景には、レアアースという貴重な物質が彗星に存在していることを知った大手企業が絡んでいることが判明します。人類滅亡となるといくら利益になる物質を手に入れても意味がないということを理解していないようで、ここでは人間の欲深さとやはり愚かさを実感しますね。トップの人たちが国の利益を優先させて人命や自然環境を犠牲にするなんてことは、規模感違えど実際にありそうな話だなと思います。

ミンディ博士がニュース番組の司会者の女性と不倫する件は正直必要か?と懐疑的でしたが、ここでも人間の愚かさを表現したかったんでしょうか。博士のキャラクターをただの良い人にしてしまうと彼の報われない人生が可哀想になってしまうけど、不倫するような愚かな男にすることで報われなかった結末を重くさせ過ぎない、そういう作戦だったのかもしれない..と思うと納得できなくもないですが。

アリアナグランデがおバカなアーティストキャラで登場しているのもコミカル感満載でした。いや何より、ニュース番組では人気歌手の破局について持ちきりで、一方彗星の衝突については全く真剣に取り上げられないっていうところが笑えるんだけど、よく考えてみれば実際にこれもありそうな話で笑えないんですよね。人類滅亡の危機なんかより有名人の色恋についての方が人々の関心を寄せる世界なんです。

最終的に人類はしっかり滅亡してしまうあたりも、他の数ある人類滅亡系の映画作品とは異なり面白かったです。ミンディ博士は結局家族と家で静かに滅亡の瞬間を迎えます。世界中の様々な場所に住む人々の最期の迎え方も映されているあたりが絶妙にリアルだなと思いました。私だったらどうするかなと考えさせられます。

ラストで冷凍保存されていた一部の金持ちや権力者達が何万年後かに別の星に降り立つんですが、大統領が鳥なのか恐竜なのかよくわからぬ生物に食べられてしまうというオチなんかも最後までコミカルさを貫いていて笑えました。知らない星に降り立って生活するんだからそれなりに準備して行きなよ...。

タイトルの"Don't Look Up"ですが、「上を見上げなければ彗星は存在しないのだ」と、受け入れがたい現実を見ようとしない人々の愚かさがこの言葉には込められていますね。コロナ禍でもそうでしたが、現実味のない誰もが想像もしていなかった事態が突然起こったとき、人々はその実態をなかなか受け入れようとしない傾向があります。コメディ要素を入れながらも敢えてバッドエンドに仕上げることで、愚かな私たち人間に現実を見ることの大切さなどをうまく気付かせてくれたように思います。