If anything happens I love you/愛してるって言っておくね

If anything happens I love you(2020)

愛してるって言っておくね

どこか疲れた様子の夫婦。2人の間に会話はない。家の中でふいに見つけた衣服や、意図せず流れ出した音楽から、彼らは自分たちの娘に想いを馳せる。ある悲劇によって潰えてしまった命。2人は、失った娘の影と共に暮らしている。そしてそこには、決して忘れられぬ一節のメッセージがあった。

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こちらの作品は12分の短編アニメ。短編作品続きになってしまいましたが、短編映画って忙しい日でもサクッと観れるし通勤時間やお昼休憩などちょっとした隙間時間を充実させてくれるのでおすすめです。短時間に伝えたいことをギュッと詰め込んでいるからか展開が早く見ていて飽きないのも短編の良いところですよね。Amazon PrimeNetflixでもたくさん短編作品がありますが、今回はアカデミー賞を受賞しているこちらのアニメが気になりました。

注意:ここからネタバレを含みます。

長いテーブルの端と端に夫婦が座って食事をとっています。花より男子の道明寺と母親が2人で食事するシーンを連想しちゃいました。あの2人は確か、いがみ合いながらも言いたいことを言い合ってた気がしますが、こちらの夫婦は会話もなくうつ状態みたいな感じですごく暗ーい雰囲気。その上に夫婦の黒い影があり、影の2人は言い争いをしています。本当はこの影のように言い争いたいんだけどそんな気力もなし、といったところでしょうか。なんでこんなに夫婦仲悪そうなんだろう~と思っていると、途中からこの夫婦には娘がいたということが分かります。

娘のTシャツを見て泣き崩れる母の顔が切なく、もう娘はこの世にはいないということが分かりますね。たまたまサッカーボールが転がった先に娘の部屋に置かれたレコードがあり、よく聴いていたであろう音楽が流れ始めます。

ここから娘と庭でサッカーの練習をしたり誕生日会を開いたり、娘の初恋を見守っていたり、家族でドライブをしたり、先ほどまでの暗い雰囲気とは対照的に明るく愛にあふれたごく普通の幸せそうな家族が映ります。きっと流れた音楽を聞いて、2人は過去の楽しかった娘との日々を思い出したんですよね。

娘が一人で登校するシーンでは、夫婦の影が学校に向かう娘を必死で止めようとしていて、なんであの日行かせてしまったんだろうという夫婦の後悔が影になっています。娘は影をすり抜けて歩き続け、すぐに学校が見えてきました。

ここで大きなアメリカの国旗が出てきます。そういえばこの作品はシンプルな絵のタッチで色もほとんど使われていないんですが、この国旗は色が付いていてインパクトがあり、このあと何か起こりそうな予感がしました。

突然、バン!という銃声がなり、生徒たちの悲鳴が聞こえます。セリフがないので挿入歌以外は基本的にサイレントだったところから、この銃声には心臓がどきっとさせられました。実際の銃撃シーンは描かれてはいないんだけど、アメリカの国旗が画面に映し出されている中での銃声や悲鳴がアメリカの銃社会の怖さを思わせるのに十分な映像ですよね。

日本では銃撃事件なんてめったに起こらないけど、これが日常的に起こりうる中で生きていくということがどれほど恐ろしいことか思い知らされました。通りすがりの知らない人が銃を持ってるなんてことも普通にあり得るわけだし..。

私が心に響いたのはタイトルの"If anything happens I love you"というメッセージが出てきたシーンです。可愛いウサギの耳が付いたスマホケースから送られてるから、銃声を聞いた娘が咄嗟に親にメッセージを送ったんだと思うんだけど、まさか本当にこれが最後のメッセージになるなんて...と心にグサっときました。

日本人の私だったら親になんて送るだろうか...今までありがとうと伝えるかな。とかなんとか考えているだけでもすごく悲しい気持ちになりました。

最後に娘の影が互いに離れてしまった夫婦2人の距離を元に戻し、2人が太陽のような娘に照らされながら抱きしめ合うところも少し心が苦しくなりました。もうこの夫婦は過去の思い出と共に2人で励まし合って生きていくしかないんだな、と...。

実話でかなり重たい話です。短編アニメだからこそ最後まで見れた部分もあると思うと、この作品に出会えてよかったなと思います。