My Best Friend Anne Frank(2021)
私の親友、アンネ・フランク
アンネ・フランクの親友ハンナ・ゴスラーから直接話を聞いたベン・ソムボハールト監督が、彼女の記憶をもとに2人の物語を描いた作品。
実話に基づいた作品ってそれだけでなんだか惹かれてしまうんですよね。ってことで名前こそ誰もが何回も聞いたことがあるアンネの日記で有名なアンネ・フランクのお話なんですが、具体的にどういう生活を送ってきたのか、どういう性格なのかってあんまり知らなかったので少し興味があってこの作品にたどり着きました。アンネフランクを題材にした映画やドラマ作品は数多くありますが、今回はアンネ・フランクの親友ハンナ・ゴスラーが主役であり、アンネが脇役で登場しているという点が面白いなと思いました。ハンナから見たアンネは明るく陽気で好奇心旺盛、ちょっと自己中な部分もあるけどいい意味でそこらへんにいそうな普通の年頃の女の子として描かれています。
第二次世界大戦中のユダヤ人迫害という残酷な歴史の中で生きた少女たちのお話なので、主人公ハンナたちに感情移入しながら観ているとさすがに少し辛くなってしまうシーンも多いですが、それ以上に興味深いなと思うシーンもいくつかあったので色々と思ったことを書き留めておこうと思います。
注意:ここからネタバレを含みます。
物語は2つの時期が交互に行ったり来たりしながら進みます。そのうちの1つ目の時期はオランダが徐々にナチスの支配下に置かれていく中でのハンナやアンネたちの日常生活にフォーカスされていて、ユダヤ人街の自宅で紅茶を飲んだりメイクをしたり外で男の子と一緒に楽しく遊んだりとまだまだ平和な時期ですね。2つ目はハンナが強制収容所に送られてからの話で、当たり前ですが全体的に暗くて悲しいシーンが多かったです。この2つの時期が同時進行しているかのように流れるので途中からもう全く見れない...!ということにならずある程度楽しく観ることができました。
まず思ったのが、ハンナがいい子過ぎるのと対照的にアンネが意地悪でいやなやつとして描かれていましたよね。実際そういう人だったのかもしれませんが、ずっと親友だと思ってたら途中で急に別の女の子たちとつるむようになって無視しだすし、必要な時だけまたハンナのもとに戻ってくるっていう最悪な性格...。しかも一緒にスイスに行くとか適当なこと言って結局勝手にどっか行っちゃうのかよっていう。
ハンナはそれでもアンネが食糧がなくて生きるのがぎりぎりだと知ったとき、自分の危険を承知の上で周りからも反対されながらも「親友だから」とすぐに食糧を届けようとしていました。なんていい子なんだ...。こんなに性格の違う2人が親友でいられるのかなと半ば少し疑問に思いましたが、ハンナのこの優しい性格だからこそアンネを受け止めてあげれてたのかもしれません。
ハンナの母親が出産時に亡くなってしまうあたりもすごく悲しかったですね。まず妊娠が嘘じゃないかどうか確かめるためにお腹を思いっきり押しつぶそうとされるシーンとかもう見てられなかったです。同じ人間として、なんであんなことができるんですか?ほんとあり得ない。そして母がいた部屋から悲しそうな表情の父が出てきてアンネと一緒に悲しむ場面..。もちろん妻が亡くなった夫も相当悲しいだろうけど、十代の少女にとって母親が亡くなった事実を受け止めるのはなかなか容易なことではないと思います。
また父親に関してはその後収容所に移ってから病死してしまうのですが、ここでもハンナは悲しい表情を見せながらも、横にいた妹ガビに「お父さんは疲れてるの」と言って取り乱すこともなく冷静でした。彼女はただ優しいだけでなく強さも持ち合わせているなと感じました。
両親それぞれが亡くなった直後にその時々にハンナが着ていたシャツを破られるシーンがあるのですが、これはユダヤ人がどうしても解決できない問題に直面した時にやる儀式的なもののようです。特に近親者が亡くなったときにこのようにして悲嘆を表わすのだとか。恥ずかしながらこの映画で初めて知りましたが、映画の中で亡くなったことをこの仕草によって我々に間接的に伝えてくれるのは良い表現方法だなと思いました。この文化は現代のユダヤ人にも引き継がれているのかも気になりますね。
そしてハンナとアンネが柵越しに再開するシーン。ここでのアンネはチフスという病気にかかり餓死寸前で気力もなく、ハンナが知っていた明るいアンネとは全くの別人であるはずなんですが、ハンナは離れ離れになる前と全く変わらずアンネに接していたのが印象的です。弱々しくなってしまったアンネも、髪を短くされてしまったアンネも、どんなアンネでも今までと変わらない大好きな親友であり、生きてくれていて久々に会えたことが単純に嬉しい、と言っているような感じがしました。そしてこれが2人が会う最後の時となります。
全体を通して、アンネの日記には触れず、主に戦時中に引き裂かれてしまったハンナとアンネの友情にフォーカスされたお話でした。収容所での劣悪な環境やひどい仕打ちがあったことが様々な場面から想像できますが、ハンナやアンネが直接的に暴力を受けたシーンは一つもなかったので、「アンネ・フランクの人生についてもっと知りたい」という動機で観た私にはちょうどいい塩梅だったなと思います。
改めて、なぜ普通に生きたいだけの少女たちがこんな目に合わなきゃいけないのか、なぜ人間はこれほどまでに残酷になれるのか、現在の世界情勢もあって余計に色々と考えさせられる作品でした。