8 Mile/エイトマイル

8 Mile(2002)

エイトマイル

1995年、デトロイト中産階級の白人が多く住む郊外とは「8マイルロード」で分断され、貧困層が多数を占める都市中心部。ジミーはここで無職の母と幼い妹の3人でトレイラー・ハウスに暮らしていた。

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デビュー前のエミネムを描いた映画。エミネムの音楽はラップ界の中でも何となく独特な雰囲気がありますよね。私は中学生の頃に"Recovery"(2010)というアルバムに出会い、当時英語がそこまで理解できなかった中でも今まで聴いてきた音楽とは違ういい意味でアグレッシブで刺激的な印象を受けた記憶があります。私は熱狂的ファンでもなんでもないんですが、どの曲も声を聴いた瞬間に「あ、エミネムだ!」ってなるし、ライブ映像でも音源と同じように聴こえるし、さすが数々の受賞歴あるアーティストは凄いなあと思います。歌詞の意味が理解できるようになった今、エミネムが何を伝えたくて歌詞を書いているのか、どういった人生を歩んできたのかを知りたいと思い今回この作品に辿り着きました。

注意:ここからネタバレを含みます。

タイトルの"8 Mile"はミシガン州デトロイトに実在するストリート名なんですね。この道の南側が黒人が多く住む貧しい街、北側が白人が多く住む富裕層の街なんですが、通称ラビット、ジミー(エミネム)は南側で家族と貧しく暮らしています。

そんな貧しい側の街ではクラブハウスでラップバトルが開催されており、ジミーもこのバトルに加わります。まず、こんなに黒人ばかりのコミュニティにひとりで立ち向かう勇気は相当なものだと思いました。そりゃ緊張して言葉に詰まるの当たり前じゃないの?って感じですがそんな甘い世界じゃないみたいで、白人というだけでラップを披露する前から毎回ステージで罵声を浴びせられるんです。

家庭環境も貧しく無職のシングルマザーである母親と幼い妹との3人暮らし。母親が酒癖男癖が悪いギャンブラーであり家賃も滞納している状態。自分と年が変わらない若い男に抱かれている母親を見るシーンなんて言葉にならないですよね...。私はエミネムの音楽こそたまに聴くのですが、彼の人生について知識不足だったので、こんな大変な家庭環境で育ったのかと衝撃を受けました。恋愛においても元カノとはすれ違いで破局してるし、その後出会ったモデル志望のアレックスといい感じになるもジミーの才能を認めていたウィンクに抱かれている現場を目撃してしまったりと、信頼していた人ともすれ違いがあってやるせない気持ちになります。

映画内では廃墟が放火されるシーンや暴力的な殴り合いのシーンもあり、普段ロマンス映画ばかり観ている私には刺激が強く、誰も死にませんようにとドキドキしながら鑑賞しました。とにかく家庭でも外でもなかなか行き場のない世界で不満を抱えつつ、どうにかして今の暮らしから抜け出そうと思いながら生きてきたのでしょう。そんな当時の不満が歌詞に乗せられているのだと思うと、ただアグレッシブな言葉を歌詞にしているだけではなく実際に彼の経験やそこから得たリアルな感情が歌詞となっていることが伝わりますよね。

最後のラップバトルの決勝戦のシーンでも自分の恵まれない日常の不満を自虐的に披露した上で相手をディスるという天才的なラップを魅せ、対戦相手のパパドクが言葉に詰まり自動的にジミーが優勝します。このシーン、なんだかとてもスカッとしました。冒頭からいけすかないお兄ちゃんって感じのジミーがやっとここでかっこよく映ってくれます。エミネムの才能が発揮された瞬間といったところでしょうか。全体的に暗いシーンや暴力的なシーンも多く、また観たいかと言われると今のところは遠慮しますが、このシーンだけは何度も観たくなります。

バトル後、このラップバトルのメインMCであるDJフューチャーから「一緒にホストをやらないか」と誘われますが、「俺は仕事に戻るよ」といってアルバイト先のプレス工場に戻っていく後ろ姿もかっこいいです。8 Mileを越えるという夢に一歩近付き、自分は自分の進むべき道へ行くのだという意志の強さを感じました。映画はここで終わるんですが、自分の進むべき道で才能を発揮してエミネムとして活躍するこの後の未来を思うと感慨深いですね。

たぶん今日からしばらく私の通勤時のBGMはエミネムの"Lose Yourself"になります。エンディングで出てくる曲なんだけど、この映画の内容がまとまったような歌詞です。自分を失え=我を忘れるぐらい没頭しろといったタイトルで、没頭した結果チャンスをつかんで夢を手に入れた彼のこの言葉には説得力がありますよね。英語が分かる方には特にこの曲もじっくりと聴いていただきたいものです。